(広島高判・昭和26年10月31日高民集4巻11号359頁)
(広島高判・昭和26年10月31日高民集4巻11号359頁)
「上告理由……は要するに,Xの先代Aが旧民法施行当時その所有の本件仏壇をその生前法定推定家督相続人であったXを排して他家の家族であるYに贈与したことは我が国古来の醇風美俗に反し従って民法第90条によって無効であると調うに帰するので,この点について先ず桜ずるに,祖先を崇拝し祖先の祭祀を重んずることは我国古来の醇風美俗であり,従って旧民法第987条が系譜,祭具等の所有権は家督相続の特権に属すると定めた所以である。即ち此の法意は被相続人の死亡又は隠居によって,系譜,祭具等の所有権を承け継ぎ祖先の祭祀を行うことを家督相続の特権と定めたのであり,従って家督相続人はこれらの物の相続による承継を放棄することは出来ないし,戸主がこれらの物を遺贈の目的としたり隠居の留保財産としたりすることは法の禁ずるところであるが,一旦承継したこれらの物を相続人が他人に譲渡し又は廃棄し或は戸主がその生前又は相続開始前に他人に売買し贈与する等の処分行為をすることは所有者の自由な権能であって生前処分を禁ずるものではない(大審院昭和8年6月14日判決参照)。けだしそのいわゆる特権に属するというのは華族の世襲財産に於けるが如く之を世襲的なものとして随意に処分することを許さないとの意ではない。只これらの物件が相続開始当時存在し戸主の所有に属する場合には家督相続人をして必ず之を保有せしめ祭祀を存続せしめんとするのであって戸主が既に生前他人に処分した後に於ては相続人は如何ともなし難いのである。即ち戸主がこれらの物を生前処分することは法の許容するところと解せられるのであって,これを以て直ちにわが国の善良の風俗に反すると解すべきではないから民法第90条によって無効と解することも出来ない。」