保険金(特別受益か)

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生命保険金は特別受益ではない



保険金(特別受益か)
生命保険金

 死亡した親が時価1,000万円の土地を所有していた場合、その土地は相続財産です。しかし、親が生命保険の契約をしていて、保険金受取人である長男が「死亡保険金」1,000万円を受け取った場合…その「死亡保険金(厳密には『生命保険金請求権』)」は、相続財産ではありません。

 『生命保険金』は、《長男固有の財産》とされます。親が借金だらけで、長男が親の相続を相続放棄した場合でも…長男が『生命保険金』を受け取ることに、全く問題は無いのです。‥‥昭和40年2月2日・最高裁判決


特別受益

『生命保険金』は、『特別受益』でしょうか。『特別受益』とは…具体的な相続分を計算する際に、〈相続時にはすでに固有財産となっている生前贈与財産等まで加えて計算する〉‥というものです。

被相続人から〈遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため、若しくは生計の資本として贈与を受けた者〉…が、対象になります。

生前贈与
〈相続人は長男と長女(相続分は各50%)・相続財産は1億円・長男は生前贈与4,000万円を受けた〉とします。《生前贈与》が『特別受益』に該当するならば、相続分に、《生前贈与》の4,000万円を加えて計算します。

相続分は、長男長女各50%ですから、それぞれ7,000万円(=1億円+4,000万円×相続分50%)です。しかし長男は、7,000万円のうち4,000万円を既に受取っているため…あと3,000万円(=7,000万円−4,000万円)しか、相続できないのです。

《生前贈与》が『特別受益』に該当しないなら、相続分は1億円です。長男も長女も、5,000万円(=1億円×50%)が、具体的な相続分となります。

特別受益の独り占め?!

平成2年に、親が死亡しました。遺産は、預金等5,000万円余と固定資産税評価額700万円の土地です。遺産分割協議は決着せず、裁判所で争うことになりました。

相続人は、四人の兄弟です。そのうちAさんが、親と同居して親の介護をしていました。このAさんが受け取った「死亡保険金」800万円が、問題となったのです。

法律上、〈生命保険金は相続財産ではない〉と、確定しています。ですから、この800万円は、Aさんのものと考えられます。

しかし、『生命保険金』が『特別受益』かどうかは未確定です。Aさんが受け取った「死亡保険金」が『特別受益』に該当するならば…この『生命保険金』を含めて、四人平等に分割することになるのです。


特別受益に該当せず!

親の死亡から14年後…やっと決着が付き、Aさんが勝ちました。

‥‥被相続人を保険契約者及び被保険者とし,共同相続人の1人又は一部の者を保険金受取人とする養老保険契約に基づき保険金受取人とされた相続人が取得する死亡保険金請求権は,民法903条1項に規定する遺贈又は贈与に係る財産には当たらないが,保険金の額,この額の遺産の総額に対する比率,保険金受取人である相続人及び他の共同相続人と被相続人との関係,各相続人の生活実態等の諸般の事情を総合考慮して,保険金受取人である相続人とその他の共同相続人との間に生ずる不公平が民法903条の趣旨に照らし到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には,同条の類推適用により,特別受益に準じて持戻しの対象となる‥‥平成16年10月29日・最高裁決定


生命保険で争続対策

〈生命保険金は特別受益ではない〉という判決により、『生命保険』を使った相続対策が、より安心してできるようになりました。1億円の財産があるケースで、長男と次男が遺産分割でモメないように、『生命保険金』を使います。

まず、被相続人は…〈全財産を長男が相続する代償として、長男が次男に1,000万円払う〉‥という遺言を用意します。そして、長男を保険金受取人にして、一時払保険料が1億円の生命保険契約をします。

被相続人が死亡して、長男は、1億円の「死亡保険金」を受け取りました。そして、次男に1,000万円を支払いました。全財産の1億円は…保険料として保険会社に払い込まれ、『生命保険金』となって、被相続人から長男へ移転したわけです。

あくまでも公平に!

『生命保険金』は、相続財産でも『特別受益』でもありません。これでは、〈長男の相続分はゼロ〉‥ということになります。おかしいですね。

最高裁の判決は…〈他の共同相続人との間に生ずる不公平が到底是認することができないほどに著しいものであると評価すべき特段の事情が存する場合には、特別受益に該当する〉‥と、釘をさしています。極端な場合は、『特別受益』になるのです。

払込保険料=受取保険金

以前は、高齢者の生命保険加入は困難でした。しかし、現在は…銀行の窓口でも加入できる、「変額個人年金」があります。これも、生命保険契約になります。

個人年金契約では、年金受取開始前に死亡した場合…『生命保険金』として、《払込保険料相当額》が支払われます。1,000万円を保険料として払い、1,000万円を『生命保険金』として受取ることになります。本来の《年金》の趣旨とは異なるのですが、この仕組みが、相続対策に活用されているのです。
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